に堪えて来た故であろうか。
大阪に帰ると、日が暮れた。男なら一服というところを、その足で千日前の自安寺へお詣りした。
水掛け地蔵の身体をたわしで洗っていると、
「お君ちゃん」
声を掛けられた。
もとの朝日軒のおたかが、定枝、久枝、持子の三人の娘を連れて来ていたのだった。
持子は赤ん坊を抱いていた。
「あら、赤子《やあさん》出来はりましたの?」
君枝が言うと、おたかは相好くずして、
「見たっとくなはれ」
いかにも嬉しそうだった。
「――この子が出来てから言うもんは、あんた、娘どもが皆この子を奪いあいして、そら賑やかなことですわ」
もう四十を過ぎた定枝や久枝がめずらしそうに毎日赤ん坊の奪り合いをしている容子が、眼に見えるようであった。
「肝腎の私《うち》に一寸も抱かしてくれはれしめへんねん」
持子の声は明るかった。
「そない言うたかて、あんたは乳のます時はいつでも抱けるさかい……。なあ久ちゃん」
定枝は清潔に澄んだ美しい眼をくるくる動かせて、言った。
「いつもこの通りでんねん。今日かて、あんた、この子の虫封じのお守り貰いに来るのに、一家総出の大騒ぎでんねん」
おたかの
前へ
次へ
全195ページ中179ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング