「しかし、あんたも気イつけんとあかんし。うちとこの主人《おっさん》もこの頃だいぶ考えが変って真面目になって来たさかい、飲ますだけ飲ましてから、あんたとこの旦那はんを二階へあげて、意見するつもりでだんだん訊いてみると、やっぱり酒飲みはるのも無理はないわな」
 潜水夫をやめて他の職に就くつもりで、あちこちと職を探して歩いたところが、なかなか見当らず、といって、意地からでももとの潜水夫に戻るわけにはいかず、おまけに君枝には去られている。当然気を腐らして、酒を飲むようになったのだという。
「――何よりも他あやんがあんたを連れ戻したことを、だいぶ根に持ってはるらしかった。うちの主人《おっさん》も言うてたが、やっぱり男は女房に去られるほど、淋しいもんは、ないらしい。ここを、君ちゃん、よう噛み分けて考えなああきまへんぜ」
「そんなら、潜る気はちょっともおまへんねんな」
 君枝はすっかり当てが外れた想いで、蒼い溜息をついた。
「そういう気は持ったはれへんやろな。わての考えでは、あんたがこっちへ帰ったはる限り、意地からでも潜りはれへんと思うな」
 蝶子は苦労人らしく、しみじみした口調で言った。
「――ま
前へ 次へ
全195ページ中174ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング