良えとこでっせ。郊外住いもそう悪いことおまへんさかいな」
 郊外という言葉がおたかの虚栄をわずかに満足させたのだった。
 敬吉は田辺へ移ったのを機会に理髪業をよした。家へ人が出入りするのを避けるつもりもあったかも知れない。
 そして、今では理髪店用の化粧品のブローカーをしているということだった。
「柳吉つぁん[#底本では「柳吉っあん」となっている]の口添えだんねん」
 と、得意そうに種吉は君枝に語った。柳吉の実家は理髪用化粧品の問屋だったことを君枝は想いだし、わざわざ朝日軒のことを自分に言いだした種吉の気持が、微笑ましく判った。
 君枝は次郎と別れて河童路地へ戻って来ても、存外悲しい顔は見せず、この半年の間に他吉がためていた汚れ物を洗濯したり、羅宇しかえ屋の婆さんに手伝ってもらって、蒲団を縫いなおしたりした。
 ひとり者の〆団治の家の掃除もしてやり、そんな時、君枝は、
「――ここは地獄の三丁目、往きは良い良い、帰りは怖い」
 などと、鼻歌をうたった。そして、水道端では、
「うち到頭出戻りや」
 と、自分から言いだして、けろりとした顔をしていたので、ひとびとは驚いたが、しかし、そうして路
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