られるまでもなく、引揚げって奴は国家的な仕事だってことは、よう判っています。判ってはいるんですが……」
「やっぱり女房は可愛いかね」
「いや、女房だけじゃ良いんですが、祖父さんのことを考えると、うっかり……。そりゃ、あの祖父さんのことですから、僕が死んでも立派にやって行ってくれるでしょうけど、しかし、あの祖父さんもこれまでに一度婿を死なしていますから……」
と、次郎はこれを半分自分への口実にしていた。
実は次郎は近頃潜水夫の仕事が、怖いというより、むしろ嫌になって来ているのだった。
つい最近、桜橋の交叉点でむかし品川の写真機店で一緒に奉公していた男に出会った。立ち話にきくと、今では堺筋に相当な写真機店を出しているということだった。
「君もあの時辛抱してりゃ良かったのに」
言われて、それもそうだなと思ったその気持が、相当強く働いて、一生その日稼ぎの潜水夫で終ることが情けなく思われたのである。
人間は身体を責めて働かなあかんという他吉の訓《おし》えを忘れたわけではなかったが、どれだけ口を酸っぱく薦めても、いまだに隠居しようとせず、よちよち俥をひいて走っている他吉を見ると、それもな
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