として、次郎が今日の見合いの相手だとは、どうしても信じられず、さっと顔色を変えたくらいであった。
 が、次郎の眼に恨みの色などすこしもなく、取り済ましているが、またとない上機嫌の表情がぴくぴく動いていて、どう見ても今日の見合いの相手であった。
 それとわかると、君枝は今日の見合いに、クリームひとつつけて来なかったことがにわかに後悔され、嬉しさと恥かしさで下向くと、地下鉄の回数券が一枚よごれて落ちているのが眼にとまり、今この時これを見たことは、生涯忘れ得ないだろうと、思った。
 鶴富組の主人を中心に改札口での挨拶が済むと、一しょに階段を降りて行き、次郎と鶴富組の主人は梅田行きの地下鉄に乗った。君枝と他吉はそれを見送り、簡単に見合いが終った。
「そんならそれと、はじめから言うて呉れたら良えのに……」
 何も一杯くわさずともと、君枝は階段に登りながらちょっとふくれて、
「――こんな汚い顔して、鶴富組の御主人かて笑たはるこっちゃろ」
 本当は次郎が笑っているだろうという気持を含めて、そう言ったが、しかしあとで大笑いの酒という茶番めいたものもなく、若い次郎はともかく、他吉も鶴富組の主人も存外律儀
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