うにせなあかん。そういう心掛けやさかい、あんたはいつまでたっても前座してんならんネやぜ、それに、なんだっせ、いつまでも『無筆の片棒』一点張りではあきまへんぜ。今どき無筆やいうようなこと言うてたら、一生うだつがあがれへんぜ。――なあ、君ちゃん、そやろ?」
羅宇しかえ屋の婆さんはもう歳で、別人のように声が低かった。それに、丁度その時君枝は水道端の漆喰の上にぺたりと跣足になって、しきりに足洗っていたところ故、水の音が邪魔になって、羅宇しかえ屋の婆さんの声が聴きとれなかった。水道端の裸電球の鈍いあかりが、君枝の足を白く照らしていた。
「なに。おばちゃん。おばちゃん今なんぞ言うたやろ?」
「聴えへんかったんか。難儀な娘《こ》やな。――〆さんがな、いつまでも……」
言いかけて、羅宇しかえ屋の婆さんは話をかえて、
「――いつまで、あんた足|洗《あろ》てなはんネ、水は只やあらへんぜ。冷えこんだらどないすんねん?」
「そない言うたかて、良え気持やもん」
と、君枝は両足をすり合わせ、
「――明日はまた一日立ちずくめやさかい、マッサージして置かんと……」
言いながら、ふと空を見ると、星空だった。
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