橋
池谷信三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)溶《と》けていた
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)非常|梯子《ばしご》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)コクテイル・シ※[#小書き片仮名ヱ、28−上段−1]ーク
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1
人と別れた瞳のように、水を含んだ灰色の空を、大きく環を描きながら、伝書鳩の群が新聞社の上空を散歩していた。煙が低く空を這って、生活の流れの上に溶《と》けていた。
黄昏《たそがれ》が街の灯火に光りを添《そ》えながら、露路の末まで浸みて行った。
雪解けの日の夕暮。――都会は靄の底に沈み、高い建物の輪郭が空の中に消えたころ、上層の窓にともされた灯が、霧の夜の灯台のように瞬《またた》いていた。
果物屋の店の中は一面に曇った硝子《ガラス》の壁にとり囲まれ、彼が毛糸の襟巻《えりまき》の端で、何んの気なしにSと大きく頭文字を拭きとったら、ひょっこり靄の中から蜜柑《みかん》とポンカンが現われた。女の笑顔が
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