、日夜私の感情をいらだたせていました。
問。それを知ったら、被告は幸福になれると確信していたのか?
答。かえって不幸になるに違いないと思っていました。
問。人間は自分を不幸にすることのために、努力するものではないと思うが。
答。不確実の幸福は確実な不幸より、もっと不幸であろうと思います。
問。被告の知っている範囲で、その女はどんな性格を持っていたか?
答。巧みなポオカア・フェスができる女でした。だが、それは意識的な悪意から来るのではないのです。彼女は瞬間以外の自分の性格、生活に対しては、何んらの実在性を感じないのです。彼女は自分の唇の紅がついたハンケチさえ、私の手もとに残すことを恐れていました。だから、彼女がすばらしい嘘をつくとしても、それは彼女自身にとっては確実なイメエヂなのです。彼女が自分を女優だと言う時、事実彼女は、どこかの舞台の上で、華やかな花束に囲まれたことがあるのです。令嬢だと言えば、彼女は寝床も上げたことのない懶《ものう》い良家の子女なのです。それが彼女の強い主観なのです。
問。そう解っていれば、被告は何もいらいら彼女を探ることはなかったのではないか。
答。人間は他人の主
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