敷から廻って縁先に来た。
「オイ朝田、春子さんがこの石を妙だろうと言うが君は何と思う。」
「頗《すこぶ》る妙と思うねエ」
「ね朝田|様《さん》、妙でしょう。」と少女《おとめ》はにこにこ。
「そうですとも、大いに妙です。神崎工学士、君は昨夕《ゆうべ》酔払って春子|様《さん》をつかまえ[#「つかまえ」に傍点]てお得意の講義をしていたが忘れたか。」
「ねエ朝田様! その時、神崎様が巻煙草《たばこ》の灰を掌にのせて、この灰が貴女には妙と見えませんかと聞くから、私は何でもないというと、だから貴女は駄目だ、凡《およ》そ宇宙の物、森羅万象、妙ならざるはなく、石も木もこの灰とても面白からざるはなし、それを左様《そう》思わないのは科学の神に帰依しないのだからだ、とか何とか、難事《むずか》しい事をべらべら何時《いつ》までも言うんですもの。私、眠くなって了《しま》ったわ、だからアーメンと言ったら、貴下《あなた》怒っちゃったじゃアありませんか。ねエ朝田|様《さん》。」
「そうですとも、だからその石は頗る妙、大いに面白しと言うんですねエ。」
「神崎様、昨夕の敵打《かたきう》ちよ!」
「たしかに打たれました。けれ
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