つ》に御運搬の上、大いに語り度く願い候[#二字下げ終わり]
神 崎
朝 田
大 友 様
とあるので、驚いた。何時ごろから来ているのだと聞くと、娘は一週間ばかり前からという。直ぐ次の返事を書いて持たしてやった。
[#改行ごとに二字下げ]お手紙を見て驚喜《きょうき》仕候、両君の室《へや》は隣室の客を驚かす恐れあり、小生の室は御覧の如く独立の離島に候間、徹宵《てっしょう》快談するもさまたげず、是非|此方《このほう》へ御出向き下され度く待《ま》ち上候[#二字下げ終わり]
すると二人がやって来た。
「君は何処を遍歴《へめぐ》って此処《ここ》へ来た?」と朝田が座に着くや着かぬに聞く、
「イヤ、何処も遍歴らない、東京から直きに来た。」
「そこでこの夏は?」
「東京に居た。」
「何をして?」
「遊んで。」
「そいつは下らなかったな」
「全くサ、そして君等は如何《どう》だ。」
「伊豆の温泉めぐりを為《し》た。」
「面白ろい事が有ったか。」
「随分有った。然し同伴者《つれ》が同伴者だからね。」と神崎の方を向く。神崎はただ「フフン」と笑ったばかり、盃をあげて、ちょっと中の模様を見
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