るほど床に就いていたが、意外なのは暫時《しばら》く会《あわ》ぬ中に全然《すっかり》元気が衰えたことである、元気が衰えたと云うよりか殆ど我が折れて了って貴所の所謂《いわゆ》る富岡氏、極く世間並の物の能く通暁《わかっ》た老人に為《な》って了ったことである、更に意外なのは拙者の訪問をひどく喜こんで実は招《よ》びにやろうかと思っていたところだとのことである。それから段々話しているうちに老人は死後のことに就き色々と拙者に依托《いたく》せられた、その様子が死期の遠からぬを知っておらるるようで拙者も思わず涙を呑《の》んだ位であった、其処《そこ》で貴所の一条を持出すに又とない機会《おり》と思い既に口を切ろうとすると、意外も意外、老人の方から梅子|嬢《さん》のことを言い出した。それはこうで、娘は細川繁に配する積りである、細川からも望まれている、私《わし》も初は進まなかったが考えてみると娘の為め細川の為め至極良縁だと思う、何卒《どう》か貴所《あなた》その媒酌者《なこうど》になってくれまいかとの言葉。胸に例の一条が在る拙者は言句《ごんく》に塞《つま》って了った、然し直ぐ思い返してこの依頼を快く承諾した。
 
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