輕《かる》い、淡々《あは/\》しい雲《くも》が沖《おき》なる海《うみ》の上《うへ》を漂《たゞよ》ふて居《を》る、鴎《かもめ》が飛《と》ぶ、浪《なみ》が碎《くだ》ける、そら雲《くも》が日《ひ》を隱《か》くした! 薄《うす》い影《かげ》が野《の》の上《うへ》を、海《うみ》の上《うへ》を這《は》う、忽《たちま》ち又《また》明《あか》るくなる、此時《このとき》僕《ぼく》は決《けつ》して自分《じぶん》を不幸《ふしあはせ》な男《をとこ》とは思《おも》はなかつた。又《また》決《けつ》して厭世家《えんせいか》たるの權利《けんり》は無《な》かつた。
 小田原《をだはら》へ着《つ》いて何時《いつ》も感《かん》ずるのは、自分《じぶん》もどうせ地上《ちじやう》に住《す》むならば此處《こゝ》に住《す》みたいといふことである。古《ふる》い城《しろ》、高《たか》い山《やま》、天《てん》に連《つ》らなる大洋《たいやう》、且《か》つ樹木《じゆもく》が繁《しげ》つて居《を》る。洋畫《やうぐわ》に依《よ》つて身《み》を立《た》てやうといふ僕《ぼく》の空想《くうさう》としては此處《こゝ》に永住《えいぢゆう》の家《いへ》を持《
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