め》と從姉妹《いとこどうし》なのである。
 午後《ごゝ》は降《ふ》り止《や》んだが晴《は》れさうにもせず雲《くも》は地《ち》を這《は》ふようにして飛《と》ぶ、狹《せま》い溪《たに》は益々《ます/\》狹《せま》くなつて、僕《ぼく》は牢獄《らうごく》にでも坐《すわ》つて居《ゐ》る氣《き》。坐敷《ざしき》に坐《すわ》つたまゝ爲《す》る事《こと》もなく茫然《ぼんやり》と外《そと》を眺《なが》めて居《ゐ》たが、ちらと僕《ぼく》の眼《め》を遮《さへぎ》つて直《す》ぐ又《また》隣家《もより》の軒先《のきさき》で隱《かく》れてしまつた者《もの》がある。それがお絹《きぬ》らしい。僕《ぼく》は直《す》ぐ外《そと》に出《で》た。
 石《いし》ばかりごろ/\した往來《わうらい》の淋《さび》しさ。僅《わづか》に十|軒《けん》ばかりの温泉宿《をんせんやど》。其外《そのほか》の百|姓家《しやうや》とても數《かぞ》える計《ばか》り、物《もの》を商《あきな》ふ家《いへ》も準《じゆん》じて幾軒《いくけん》もない寂寞《せきばく》たる溪間《たにま》! この溪間《たにま》が雨雲《あまぐも》に閉《とざ》されて見《み》る物《もの》
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