くも何《なん》ともない。
翌日《よくじつ》は雨《あめ》、朝《あさ》からしよぼ/\と降《ふ》つて陰鬱《いんうつ》極《きは》まる天氣《てんき》。溪流《けいりう》の水《みづ》増《ま》してザア/\と騷々《さう/″\》しいこと非常《ひじやう》。晝飯《ひるめし》に宿《やど》の娘《むすめ》が給仕《きふじ》に來《き》て、僕《ぼく》の顏《かほ》を見《み》て笑《わら》ふから、僕《ぼく》も笑《わら》はざるを得《え》ない。
『貴所《あなた》はお絹《きぬ》に逢《あ》ひたくつて?』
『可笑《をか》しい事《こと》を言《い》ひますね、昨年《さくねん》あんなに世話《せわ》になつた人《ひと》に會《あ》ひたいのは當然《あたりまへ》だらうと思《おも》ふ。』
『逢《あ》はして上《あ》げましようか?』
『難有《ありがた》いね、何分《なにぶん》宜《よろ》しく。』
『明日《あした》きつとお絹《きぬ》さん宅《うち》へ來《き》ますよ。』
『來《き》たら宜《よろ》しく被仰《おつしやつ》て下《くだ》さい、』と僕《ぼく》が眞實《ほんたう》にしないので娘《むすめ》は默《だま》つて唯《た》だ笑《わら》つて居《ゐ》た。お絹《きぬ》は此娘《このむす
前へ
次へ
全26ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング