ん》せんと頭《あたま》を打觸《ぶつけ》ますよ。』
『さうですか。』

 齋藤巡査《さいとうじゆんさ》が眞鶴《まなづる》で下車《げしや》したので自分《じぶん》は談敵《だんてき》を失《うしな》つたけれど、湯《ゆ》ヶ|原《はら》の入口《いりくち》なる門川《もんかは》までは、退屈《たいくつ》する程《ほど》の隔離《かくり》でもないので困《こま》らなかつた。
 日《ひ》は暮《く》れかゝつて雨《あめ》は益※[#二の字点、1−2−22]《ます/\》強《つよ》くなつた。山々《やま/\》は悉《こと/″\》く雲《くも》に埋《うも》れて僅《わづ》かに其麓《そのふもと》を現《あらは》すばかり。我々《われ/\》が門川《もんかは》で下《お》りて、更《さら》に人力車《くるま》に乘《の》りかへ、湯《ゆ》ヶ|原《はら》の溪谷《けいこく》に向《むか》つた時《とき》は、さながら雲《くも》深《ふか》く分《わ》け入《い》る思《おもひ》があつた。



底本:「定本 国木田独歩全集 第四巻」学習研究社
   1971(昭和46)年2月10日初版発行
   1978(昭和53)年3月1日増訂版発行
   1995(平成7)年7月3日
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