を吹《ふ》きたてゝ下《くだ》つて來《き》たので直《す》ぐ入《い》れちがつて我々《われ/\》は出立《しゆつたつ》した。
雨《あめ》が次第《しだい》に強《つよ》くなつたので外面《そと》の模樣《もやう》は陰鬱《いんうつ》になるばかり、車内《うち》は退屈《たいくつ》を増《ま》すばかり眞鶴《まなづる》の巡査《じゆんさ》がとう/\
『何方《どちら》へ行《いらつ》しやいます。』と口《くち》を切《きつ》た。
『湯《ゆ》ヶ|原《はら》へ行《ゆか》ふと思《おも》つて居《ゐ》ます。』と自分《じぶん》がこれに應《おう》じた。思《おも》つて居《ゐ》るどころか、今現《いまげん》に行《ゆ》きつゝあるのだ。けれど斯《か》ふ言ふのが温泉場《をんせんば》へ行《ゆ》く人《ひと》、海水浴場《かいすゐよくぢやう》へ行《ゆ》く人《ひと》乃至《ないし》名所見物《めいしよけんぶつ》にでも出掛《でかけ》る人《ひと》の洒落《しやれ》た口調《くてう》であるキザな言葉《ことば》たるを失《うしな》はない。
『湯《ゆ》ヶ|原《はら》は可《い》い所《とこ》です、初《はじ》めてゞすか。』
『一二|度《ど》行《い》つた事《こと》があります。』
『宿
前へ
次へ
全35ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング