》る人車《じんしや》と入《い》りちがへるのである。
巡査《じゆんさ》は此處《こゝ》で初《はじめ》て新聞《しんぶん》を手離《てばな》した。自分《じぶん》はホツと呼吸《いき》をして我《われ》に返《かへ》つた。義母《おつかさん》はウンともスンとも言《い》はれない。別《べつ》に我《われ》に返《かへ》る必要《ひつえう》もなく又《ま》た返《かへ》るべき我《われ》も持《もつ》て居《ゐ》られない
『此處《こゝ》で又《また》暫時《しばら》く待《ま》たされるのか。』
と眞鶴《まなづる》の巡査《じゆんさ》、則《すなは》ち張飛巡査《ちやうひじゆんさ》が言《い》つたので
『いつも此處《こゝ》で待《ま》たされるのですか。』
と自分《じぶん》は思《おも》はず問《と》ふた。
『さうとも限《かぎ》りませんが熱海《あたみ》が遲《おそ》くなると五|分《ふん》や十|分《ぷん》此處《こゝ》で待《ま》たされるのです。』
壯丁《さうてい》は車《くるま》を離《はな》れて水《みづ》を呑《の》むもあり、皆《みな》掛茶屋《かけぢやゝ》の縁《えん》に集《あつま》つて休《やす》んで居《ゐ》た。此處《こゝ》は谷間《たにま》に據《よ》る一|小
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