アやつて居《ゐ》るのだらうと自分《じぶん》には思《おも》はれた。廣庭《ひろには》に向《むい》た釜《かま》の口《くち》から青《あを》い煙《けむ》が細々《ほそ/″\》と立騰《たちのぼ》つて軒先《のきさき》を掠《かす》め、ボツ/\雨《あめ》が其中《そのなか》を透《すか》して落《お》ちて居《ゐ》る。半分《はんぶん》見《み》える土間《どま》では二十四五の女《をんな》が手拭《てぬぐひ》を姉樣《ねえさま》かぶりにして上《あが》りがまち[#「がまち」に傍点]に大盥《おほだらひ》程《ほど》の桶《をけ》を控《ひか》へ何物《なにもの》かを篩《ふるひ》にかけて專念《せんねん》一|意《い》の體《てい》、其桶《そのをけ》を前《まへ》に七ツ八ツの小女《こむすめ》が坐《すわ》りこんで見物《けんぶつ》して居《ゐ》るが、これは人形《にんぎやう》のやうに動《うご》かない、風呂《ふろ》の中《なか》の少年《せうねん》も同《おな》じくこれを見物《けんぶつ》して居《ゐ》るのだといふことが自分《じぶん》にやつと解《わか》つた。
入口《いりくち》の彼方《あちら》は長《なが》い縁側《えんがは》で三|人《にん》も小女《こむすめ》が坐《すわ》つて居《ゐ》て其《その》一人《ひとり》は此方《こちら》を向《む》き今《いま》しも十七八の姉樣《ねえさん》に髮《かみ》を結《ゆ》つて貰《もら》ふ最中《さいちゆう》。前髮《まへがみ》を切《き》り下《さげ》て可愛《かはゆ》く之《これ》も人形《じんぎやう》のやうに順《おとな》しくして居《ゐ》る廣庭《ひろには》では六十|以上《いじやう》の而《しか》も何《いづ》れも達者《たつしや》らしい婆《ばあ》さんが三|人立《にんたつ》て居《ゐ》て其《その》一人《ひとり》の赤兒《あかんぼ》を脊負《おぶつ》て腰《こし》を曲《ま》げ居《を》るのが何事《なにごと》か婆《ばあ》さん聲《ごゑ》を張上《はりあ》げて喋白《しやべ》つて居《ゐ》ると、他《た》の二人《ふたり》の婆樣《ばあさん》は合槌《あひづち》を打《う》つて居《ゐ》る。けれども三|人《にん》とも手《て》も足《あし》も動《うご》かさない。そして五六|人《にん》の同《おな》じ年頃《としごろ》の小供《こども》がやはり身動《みうご》きもしないで婆《ばあ》さん達《たち》の周圍《まはり》を取《と》り卷《ま》いて居《ゐ》るのである。
眞黒《まつくろ》な艷《つや》の佳《い
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