《うっちゃ》って置くからです」
「何炭《なに》を盗られたの」とお徳は執着《しゅうね》くお源を見ながら聞いた。
「上等の佐倉炭《さくら》です」
お源はこれ等の問答を聞きながら、歯を喰いしばって、踉蹌《よろめ》いて木戸の外に出た。
土間に入るやバケツを投《ほう》るように置いて大急ぎで炭俵の口を開けて見た。
「まア佐倉炭《さくら》だよ!」と思わず叫んだ。
お徳は老母からも細君からも、みっしり叱《しか》られた。お清は日の暮になってもお源の姿が見えないので心配して御気慊《ごきげん》取りと風邪見舞とを兼ねてお源を訪《たず》ねた。内が余り寂然《ひっそり》しておるので「お源さん、お源さん」と呼んでみた。返事がないので可恐々々《こわごわ》ながら障子戸を開けるとお源は炭俵を脚継《あしつぎ》にしたらしく土間の真中《まんなか》の梁《はり》へ細帯をかけて死でいた。
二日|経《た》って竹の木戸が破壊《こわ》された。そして生垣《いけがき》が以前《もと》の様《さま》に復帰《かえ》った。
それから二月|経過《たつ》と磯吉はお源と同年輩《おなじとしごろ》の女を女房に持って、渋谷村に住んでいたが、矢張《やはり》
前へ
次へ
全33ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング