着き顔色を変えて眼をぎょろぎょろさしているのを見て、にやり笑った。お源は又た早くもこれを看取《みてと》りお徳の顔を睨《にら》みつけた。お徳はこう睨みつけられたとなると最早《もう》喧嘩《けんか》だ、何か甚《ひど》い皮肉を言いたいがお清が傍《そば》に居るので辛棒していると十八九になる増屋の御用聞が木戸の方から入て来た。増屋とは昨夜《ゆうべ》磯吉が炭を盗んだ店である。
「皆様《みなさん》お早う御座います」と挨拶するや、昨日《きのう》まで戸外《そと》に並べてあった炭俵が一個《ひとつ》見えないので「オヤ炭は何処《どっか》へ片附けたのですか」
お徳は待ってたという調子で
「あア悉皆《みんな》内へ入《いれ》ちゃったよ。外へ置くとどうも物騒だからね。今の高価《たか》い炭を一片《ひときれ》だって盗られちゃ馬鹿々々しいやね」とお源を見る、お清はお徳を睨む、お源は水を汲んで二歩《ふたあし》三歩《みあし》歩るき出したところであった。
「全く物騒ですよ、私《わたし》の店《ところ》では昨夜《ゆうべ》当到《とうとう》一俵盗すまれました」
「どうして」とお清が問うた。
「戸外《そと》に積んだまま、平時《いつも》放下
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