「ひょい」に傍点]と肩に乗て直ぐ横の田甫道《たんぼみち》に外《それ》て了った。
 大急で帰宅《かえ》って土間にどしり[#「どしり」に傍点]と俵を下した音に、泣き寝入《ねいり》に寝入っていたお源は眼を覚したが声を出《ださ》なかった。そして今のは何の響とも気に留めなかった。磯もそのままお源の後から布団の中に潜《もぐ》り込んだ。
 翌朝になってお源は炭俵に気が着き、喫驚《びっくり》して
「磯さんこれはどうしたの、この炭俵は?」
「買って来たのサ」と磯は布団を被《かぶ》ってるまま答えた。朝飯《めし》が出来るまでは磯は床を出ないのである。
「何店《どこ》で買ったの?」
「何処《どこ》だって可いじゃないか」
「聞いたって可いじゃないか」
「初公の近所の店だよ」
「まアどうしてそんな遠くで買ったの。……オヤお前さん今日お米を買うお銭《あし》を費《つか》って了《しま》やアしまいね」
 磯は起上って「お前がやれ量炭も買えんだのッて八《や》か間《ま》しく言うから昨夜《ゆうべ》金公の家へ往《い》って借りようとして無《ない》ってやがる。それから直ぐ初公の家《とこ》へ往ったのだ。炭を買うから少《すこし》ばかり貸
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