男」で、大庭の女連《おんなれん》は何となく薄気味《うすきび》悪く思っていた。だからお徳までが磯には憚《はばか》る風がある。これがお源には言うに言われない得意なので、お徳がこの風を見せた時、お清が磯に丁寧な言葉を使った時など嬉《うれし》さが込上げて来るのであった。
それで結極のべつ貧乏の仕飽《しあき》をして、働き盛りでありながら世帯らしい世帯も持たず、何時《いつ》も物置か古倉の隅《すみこ》のような所ばかりに住んでいる、従ってお源も何時しか植木屋の女房連《かかあれん》から解らん女だ、つまり馬鹿だとせられていたのだ。
磯吉の食事《めし》が済むとお源は笊《ざる》を持て駈出《かけだ》して出たが、やがて量炭《はかりずみ》を買て来て、火を起しながら今日お徳と木戸のことで言いあったこと、旦那が木戸を見て言った言葉などをべらべら喋舌《しゃべっ》て聞かしたが、磯は「そうか」とも言わなかった。
そのうち磯が眠そうに大欠伸《おおあくび》をしたので、お源は垢染《あかじみ》た煎餅布団《せんべいぶとん》を一枚敷いて一枚|被《か》けて二人一緒に一個身体《ひとつからだ》のようになって首を縮めて寝て了った。壁の隙間
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