《あかあり》は彼《かれ》のモヂヤ/\した髯《ひげ》の中を草場《くさはら》かと心得《こゝろえ》て駈《か》け廻《まは》るといふ行體《ていたらく》。腹《はら》が空《すい》て來《く》ると、手《て》を伸《のば》して手《て》の屆《とゞ》く處《ところ》に實《なつ》て居《を》る無花果《いちじく》か芭蕉《ばせう》の實《み》を捩《もぎ》つて食《く》ふ、若し起上《たちあが》つて捩《もぎ》らなければならぬなら飢餓《うゑ》て死《しん》だかも知れないが、幸《さいはひ》にして一人《ひとり》では食《く》ひきれぬ程《ほど》の實《み》が房々《ふさ/\》と實《な》つて居《ゐ》るので其《その》憂《うれひ》もなく、熟過《つえすぎ》[#ルビの「つえ」に「ママ」の注記]た實《み》がぼて/\と地に落《お》ちて蟻《あり》の餌《ゑ》となり、小鳥《ことり》の群《むれ》は枝《えだ》から枝《えだ》を飛《と》び廻《まは》つて思《おも》ひのまゝ木實《このみ》を啄《ついば》んでも叱《しか》り手《て》がないといふ次第《しだい》であつた。
 先《ま》づ斯《か》ういふ風《ふう》な處《ところ》からラクダルの怠惰屋《なまけや》は國内《こくない》一般《いつぱん
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