ルの居所《ゐどころ》も一寸《ちよつと》知《し》れなかつた。彼方《あつち》此方《こつち》と搜《さが》す中、漸《やつ》とのことで大きな無花果《いちじく》の樹蔭《こかげ》に臥《ね》こんで居《ゐ》るのを見《み》つけ出《だ》し、親父《おやぢ》は恭々《うや/\》しく近寄《ちかよ》つて丁寧《ていねい》にお辭儀《じぎ》をして言《い》ふのには
『實《じつ》は今日《けふ》お願《ねがひ》があつてお邪魔《じやま》に出《で》ました。これは手前《てまへ》の愚息《せがれ》で御座《ござ》います、是非《ぜひ》貴樣《あなた》のお弟子《でし》になりたいと本人《ほんにん》の望《のぞみ》ですから連《つれ》て參《まゐ》りましたが、一《ひと》つ試驗《しけん》をして見《み》て下《くだ》さいませんか。其上《そのうへ》で若《も》し物《もの》になりさうだツたら何卒《どうか》怠惰屋《なまけや》の弟子《でし》といふことに願《ねが》ひたいものです。さうなると私《わたし》の方《はう》でも出來《でき》るだけのお禮《れい》は致します積りで……』
 ラクダルは無言《むごん》のまゝ手眞似《てまね》で其處《そこ》へ坐《すわ》らした。親父《おやぢ》は當前《あ
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