怠惰屋の弟子入り
国木田独歩
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)亞弗利加洲《アフリカしう》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|時間《じかん》たち
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)愈※[#二の字点、1−2−22]《いよ/\》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)橙《だい/\》
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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亞弗利加洲《アフリカしう》にアルゼリヤといふ國《くに》がある、凡そ世界中《せかいぢゆう》此國《このくに》の人《ひと》ほど怠惰者《なまけもの》はないので、それといふのも畢竟《ひつきやう》は熱帶地方《ねつたいちはう》のことゆえ檸檬《れもん》や、橙《だい/\》の花《はな》咲《さ》き亂れて其《その》得《え》ならぬ香《かほり》四方《よも》に立《た》ちこめ、これに觸《ふ》れる人《ひと》は自《みづ》から睡眠《ねむり》を催《もよ》ふすほどの、だらり[#「だらり」に傍点]とした心地《こゝち》の好《よ》い土地柄《とちがら》の故《せい》でもあらう。
處《ところ》が此《この》アルゼリヤ國《こく》の中《うち》でブリダアといふ市府《まち》の人《ひと》は分《わけ》ても怠惰《なまけ》ることが好《す》き、道樂《だうらく》をして日《ひ》を送《おく》ることが好きといふ次第である。
佛蘭西人《フランスじん》が未《ま》だアルゼリヤを犯《おか》さない數年前《すねんぜん》に此ブリダアの市《まち》にラクダルといふ人《ひと》が住《す》んで居《ゐ》たが、これは又た大《たい》した豪物《えらぶつ》で、ブリダアの人々から『怠惰屋《なまけや》』といふ綽名《あだな》を取《と》つて居《ゐ》た漢《をとこ》、この漢《をとこ》と比《くらべ》て見《み》ると流石《さすが》のブリダアの市人《まちびと》も餘程《よほど》の勤勉《きんべん》の民《たみ》と言《い》はんければならない、何《な》にしろラクダルの豪《えら》い證據《しようこ》は『怠惰屋《なまけや》』といふ一個《ひとつ》の屋號《やがう》を作《つく》つて了《しま》つたのでも了解《わか》る、綉工《ぬひはくや》とか珈琲屋《かうひいや》とか、香料問屋《かうれうとひや》とか、それ/″
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