《いや》になり、車を飛ばして自宅《うち》に帰つた。遅くなるとか、閉《し》めても可《い》いとか房《ふさ》に言つたのを忘れて了《しま》つたのである。
帰つて見ると未《ま》だ元子《もとこ》は帰宅《かへつ》て居ない。房《ふさ》も気慊《きげん》を取る言葉がないので沈黙《だまつ》て横を向いてると、銀之助は自分でウヰスキーの瓶《びん》とコツプを持《もつ》て二階へ駈《か》け上がつた。
精《き》で三四杯あほり立てたので酔《よひ》が一時《いつとき》に発して眼《め》がぐらぐらして来た。此時《このとき》
『断然|元子《もとこ》を追ひ出して静《しづ》を奪つて来る。卑《いや》しくつても節操《みさを》がなくつても静《しづ》の方が可《い》い』といふ感が猛然と彼の頭に上《の》ぼつた。
『静《しづ》が可《い》い、静《しづ》が可《い》い』と彼は心に繰返《くりかへ》しながら室内をのそ/\歩いて居たが、突然ソハの上に倒れて両手を顔にあてゝ溢《あふ》るゝ涙を押《おさ》へた。
[#地付き](明治40[#「40」は縦中横]年9月「太陽」)
底本:「明治の文学 第22巻 国木田独歩」筑摩書房
2001(平成13)年1月15日初版第1刷発行
底本の親本:「国木田独歩全集 4巻」学習研究社
1966(昭和41)年1月
初出:「太陽」博文館
1907(明治40)年9月
入力:iritamago
校正:多羅尾伴内
2004年7月15日作成
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