りと自分で葬儀《さうぎ》の仕度《したく》などを整《とゝの》へ又《ま》た子《こ》に遺言《ゆゐごん》して石を棺《くわん》に收《おさ》むることを命《めい》じた。果《はた》して間《ま》もなく死《し》んだので子は遺言《ゆゐごん》通《どほ》り石を墓中《ぼちゆう》に收《をさ》めて葬《はうむ》つた。
 半年ばかり經《たつ》と何者《なにもの》とも知れず、墓《はか》を發《あば》いて石を盜《ぬす》み去《さつ》たものがある。子は手掛《てがかり》がないので追《お》ふことも出來ず其まゝにして二三日|經《たつ》た。一日|僕《ぼく》を從《したが》へて往來《わうらい》を歩《ある》いて居ると忽《たちま》ち向《むかふ》から二人の男、額《ひたひ》から汗《あせ》を水《みづ》の如く流《なが》し、空中《くうちゆう》に飛《と》び上《あが》り飛《と》び上《あが》りして走《はし》りながら、大聲《おほごゑ》で『雲飛《うんぴ》先生《せんせい》、雲飛先生! さう追駈《おつかけ》て下《くださ》いますな、僅《わづ》か四兩の金《かね》で石を賣りたいばかりに仕たことですから』と、恰《あだか》も空中《くうちゆう》人《ひと》あるごとくに叫《さけ》び來《く
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