ち葉を掃き、言葉を出しませんでした。
日のたつうちに、この怪しい子供の身の上が次第にわかって来ました、と言うのは、畢竟《ひっきょう》私が気をつけて見たり聞いたりしたからでしょう。
子供は名を六蔵と呼びまして、田口の主人《あるじ》には甥《おい》に当たり、生まれついての白痴であったのです。母親というは四十五六、早く夫に別れまして実家《さと》に帰り、二人の子を連れて兄の世話になっていたのであります。六蔵の姉はおしげと呼び、その時十七歳、私の見るところでは、これもまた白痴と言ってよいほど哀れな女でした。
田口の主人《あるじ》も初めのほどは白痴のことを隠しているようでしたが、何をいうにも隠しうることでないのですから、ついにある夜のこと、私の室《へや》に来て教育の話の末に、甥《おい》と姪《めい》の白痴であることを話しだし、どうにかしてこれにいくぶんの教育を加えることはできないものかと、私に相談をしました。
主人《あるじ》の語るところによると、この哀れなきょうだいの父親というは、非常な大酒家で、そのために命をも縮め、家産をも蕩尽《とうじん》したのだそうです。そして姉も弟《おとと》も初めのうち
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