深林の上を見越しに、近郊の田園を望んで楽しんだことも幾度であるかわかりませんほどでした。
 ある日曜の午後と覚えています、時は秋の末で、大空は水のごとく澄んでいながら野分《のわけ》吹きすさんで城山の林は激しく鳴っていました。私は例のごとく頂上に登って、やや西に傾いた日影の遠村近郊をあかく染めているのを見ながら、持って来た書物を読んでいますと、突然人の話し声が聞こえましたから石垣《いしがき》の端に出て下を見おろしました。別に怪しい者でなく三人の小娘が枯れ枝を拾っているのでした。風が激しいので得物《えもの》も多いかして、たくさん背中にしょったままなおもあたりをあさって[#「あさって」に傍点]いる様子です。むつまじげに話しながら、楽しげに歌いながら拾っています、それがいずれも十二三、たぶん何村あたりの農家の子供でしょう。
 私はしばらく見おろしていましたが、またもや書物のほうに目を移して、いつか小娘のことは忘れてしまいました。するとキャッという女の声、驚いて下を見ますと、三人の子供は何に恐れたのか、枯れ木を背負ったままアタフタ[#「アタフタ」に傍点]と逃げ出して、たちまち石垣《いしがき》のか
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