春の鳥
国木田独歩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)城山《しろやま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五|間《けん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#アステリズム、1−12−94]
−−

       一

 今より六七年前、私はある地方に英語と数学の教師をしていたことがございます。その町に城山《しろやま》というのがあって、大木暗く茂った山で、あまり高くはないが、はなはだ風景に富んでいましたゆえ、私は散歩がてらいつもこの山に登りました。
 頂上には城あとが残っています。高い石垣《いしがき》に蔦葛《つたかつら》がからみついて、それが真紅《しんく》に染まっているあんばいなど得も言われぬ趣でした。昔は天主閣の建っていた所が平地になって、いつしか姫小松まばらにおいたち、夏草すきまなく茂り、見るからに昔をしのばす哀れなさまとなっています。
 私は草を敷いて身を横たえ、数百年《すひゃくねん》斧《おの》の入れたことのない欝《うつ》たる
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