て、蚊帳の傍《そば》に来て、『あなたもう寝たの?』と聞きました。
『もう寝かけているところだ』と私はなぜか寝ぼけ声を使いました。
『ちょっと入らして頂戴な、蚊で堪らないから』と言いさま、やっと一人寝の蚊帳の中に入って来たのでございます。
 朝早くお俊は帰ってゆきましたが、どういう風に藤吉の気嫌を取ったものか、それとも酔いが醒《さ》めて藤吉が逆戻りしましたのか、おとなしく仕事に出て参りました。出際《でぎわ》に上り口から頭を出して『お早よう』と言いさま、妙に笑って頭を掻《か》いて見せまして『いずれおわびは帰ってから』と、言い捨てて出て参りました。その後姿を見送って『アア悪いことをした』と私はギックリ胸に来ましたけれどもう追っつきません。それからというものは、お俊の亭主はほんとうに二人になったのでございます。
 それから一月も経たぬうちに藤吉はまた親方に何か言われて、プンプン怒って帰って参りましたが、今度は少しも酔っていないのです。お俊と別れて自分はしばらく横浜へ稼《かせ》ぎに行くと言った様子はひどく覚悟をしたらしいので、私も浜へゆくことは強いて止めません、お俊と別れるには及ぶまい、しばらく
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