出てから十年の間、いろいろな苦労をしたに似ず、やはり持って生まれた性質《しょうぶん》と見えまして、烈しいこともできず、烈しい言葉すらあまり使わず、見たところ女などには近よることもできない野暮天に見えますので、大工の藤吉が唐偏木で女の味も知らぬというのは決して無理ではなかったのです。実際私は意気で女難にかかったというよりか皆んな、おとなしくって野暮だからかえって女難にかかったのでございます。
 ある夜のことに藤吉が参りまして、洗濯物《せんたくもの》があるなら嚊《かかあ》に洗わせるから出せと申しますから、遠慮なく単衣《ひとえ》と襦袢《じゅばん》を出しました。そう致しますとそのあくる日の夕方に大工の女房が自分で洗濯物を持って参りまして、これだからお神さんを早くお持ちなさい、女房のありがた味はこれでもわかろうと私の膝の上に持って来たのを投げ出して帰えりました。この女はお俊《しゅん》と申しまして、年は二十四五でございます。長屋中でお俊はいつか噂にのぼり、またお俊の前でもお神さんはどう見ても意気だなぞと、賞《ほ》めそやす山の神があるくらいですから私の目にもこれはただの女ではないくらいのことは感づい
前へ 次へ
全50ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング