て祖母《おばア》さんと何か話してござるだろうなど思いますと堪らなくなって叔母にこれからすぐ帰えると云いだしました。叔母は笑って取り合ってくれません、そのうちに燈火《あかり》が点《つ》く、従兄弟と挾《はさ》み将棊《しょうぎ》をやるなどするうちにいつか紛れてしまいましたが、次の日は下男に送られすぐ家に帰りました。
また母と一しょに帰る時など、二人とも出かける時ほどの元気はありませんで、峠を越す時、母は幾度となく休みます。思い出しますのはその時の母の顔でございます。石に腰をおろしてほっと呼吸《いき》を吐《つ》いて言うに言われん悲しげな顔つきをします、その顔つきを見ますと私までが子供心にも悲しいような気がしまして黙ってつくねん[#「つくねん」に傍点]と母の傍《そば》に腰をかけているのでございます。そうすると母が、『お前腹がすきはせんか、腹がすいたら餅をお喰べ、出して上げようか』と言って合財嚢《がっさいぶくろ》の口を開きかけます。私が、『腹はすかない』と言えば、『そんなことを言わないで一つお喰べ、おっかさんも喰べるから』と言って無理に餅をくれます。そうされますと、私はなぜかなお悲しくなって、母
前へ
次へ
全50ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング