、今夜宅へおいで、いろいろ話して聞かすから』と言い捨てて孫娘と共に山を下《お》りてしまった。
僕が高慢な老人をへこましたのか、老人から自分の高慢をへこまされたのかわからなくなったが、ともかく、少しはへこましてやったつもりで宅に帰り、この事を父に語った。すると父から非常にしかられて、早速《さっそく》今夜あやまりに行けと命ぜられ長者を辱《はずかし》めたというので懇々説諭された。
その晩、僕は大沢先生の宅を初めて訪《たず》ねたが、別にあやまるほどの事もなく、老先生はいかにも親切にいろいろな話をして聞かして、僕は何だか急にこの老人が好きになり、自分のお祖父《じい》さんのような気がするようになった。
その後僕は毎日のように老先生の家を訪ねた。学校から帰るとすぐに先生の宅へ駆けつける、老人と孫娘の愛子はいつも気嫌《きげん》よく僕を迎えてくれる。そして外から見るとは大違い、先生の家は陰気どころかはなはだ快活で、下男の太助はよく滑稽《おどけ》を言うおもしろい男、愛子は小学校にも行かぬせいかして少しも人ずれのしない、何とも言えぬ奥ゆかしさのあるかあいい少女《おとめ》、老先生ときたらまるで人のよいお
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