人だ。百円盗んで置きながら親子の縁を切るなど文句が面白ろい。初から他人なのだ。
自分は小供の時から母に馴染《なじ》まなんだ。母も自分には極《きわめ》て情が薄かった。
明日は日曜。同勢四五人舟で押出す約束であるが、お露も連れこみたいものだ。
大河今蔵の日記は以上にて終りぬ。彼は翌日誤って舟より落ち遂に水死せるなり。酔に任せ起《た》って躍《おど》りいたるに突然水の面《おも》を見入りつ、お政々々と連呼してそのまま顛落《てんらく》せるなりという。
記者去年帰省して旧友の小学校教員に会う、この日記は彼の手に秘蔵されいたるなり。馬島《うましま》に哀れなる少女あり大河の死後四月にして児を生む、これ大河が片身、少女はお露なりとぞ。
猶《な》お友の語るところに依れば、お露は美人ならねどもその眼に人を動かす力あふれ、小柄《こづくり》なれども強健なる体格を具《そな》え、島の若者多くは心ひそかにこれを得んものと互に争いいたるを、一度《ひとたび》大河に少女の心|移《うつる》や、皆大河のためにこれを祝して敢《あえ》て嫉《ねたむ》もの無かりしという。
お露は児のために生き、児は島人《しまびと》の何人《
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