め」
自分はどうしてこう老人の気に入るだろう。老人といえば升屋の老人は今頃誰を対手《あいて》に碁を打っていることやら。
六兵衛は又こう言った
「先生は一度|妻《かか》を持たことが有るに違いなかろう」
「どうして知れる」
「どうしてチュウて、それは老人《としより》の眼には知れる」
「全く有ったよ、然し余程|以前《まえ》に死で了った」
「ハアそれは気の毒なことをなされました」
「けれどもね六兵衛さん、死だ妻はお露ほど可愛《かあい》くなかったよ、何でも無《なか》ったよ」
「それは不実だ。先生もなかなか浮気だの、新らしいのが可《え》えだ」と言って老人は笑った。
自分も唯《た》だ笑って答えなかった。不実か浮気か、そんなことは知らない。お露は可愛《かあい》い。お政は気の毒。
酒の上の管《くだ》ではないが、夫婦というものは大して難有《ありがた》いものでは無い。別してお政なんぞ、あれは升屋の老人がくれたので、くれたから貰《もら》ったので、貰ったから子が出来たのだ。
母もそうだ、自分を生んだから自分の母だ、母だから自分を育てたのだ。そこで親子の情があれば真実《ほんと》の親子であるが、無ければ他
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