#「五月十九日」に傍点(白丸)]
 昨夜は六兵衛が来て遅くまで飲んだ。六兵衛の言い草が面白いではないか
「お露を妻《かか》に持なせえ」
「持っても可いなあ」
「持ても可《え》えなんチュウことは言わさん、あれほど可愛《かわ》いがっておって未だ文句が有るのか」
「全くあの女は可愛いよ、何故こう可愛いだろう、ハハハハ……」
「先方《むこう》でもそねえに言うてら、どうでこう先生が可愛いのか解らんチュウて」
「さようさ、私《わし》みたような男の何処《どこ》が可いのかお露は無暗と可愛いがってくれるが妙だ。これは私《わし》にも解らんよ」
「そうで無えだ、先生のような人は誰でも可愛《かあい》がりますぞ。お露が可愛がるのは無理が無えだ」
「ハハハハ何故や、何故や」
「何故チュウて問われると困まるが、一口に言うと先生は苦労人だ。それで居て面白ろいところがあって優しいところがあるだ。先生とこう飲んでいると私《わし》でも四十年《しじゅうねん》も前の情話《いろばなし》でも為てみたくなる、先生なら黙って聴《き》いてくれそうに思われるだ。島中《しまじゅう》先生を好《すか》んものは有りましねえで。お露や私《わし》を初
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