なんぴと》にも抱《いだ》かれ、大河はその望むところを達して島の奥、森蔭暗き墓場に眠るを得たり。
記者思うに不幸なる大河の日記に依りて大河の総《すべて》を知ること能《あた》わず、何となれば日記は則《すなわ》ち大河自身が書き、しかしてその日記には彼が馬島に於ける生活を多く誌《しる》さざればなり。故《ゆえ》に余輩は彼を知るに於て、彼の日記を通して彼の過去を知るは勿論《もちろん》、馬島に於ける彼が日常をも推測せざる可《べか》らず。
記者は彼を指して不幸なる男よというのみ、その他を言うに忍びず、彼もまた自己を憐《あわ》れみて、ややもすれば曰《いわ》く、ああ不幸なる男よと。
酒中日記とは大河自から題したるなり。題して酒中日記という既に悲惨《ひさん》なり、況《いわ》んや実際彼の筆を採る必ず酔後に於てせるをや。この日記を読むに当《あたっ》て特に記憶すべきは実に又この事実なり。
お政は児を負《お》うて彼に先《さきだ》ち、お露は彼に残されて児を負う。何《いず》れか不幸、何《いずれ》か悲惨。
底本:「牛肉と馬鈴薯・酒中日記」新潮文庫、新潮社
1970(昭和45)年5月30日発行
入力:八
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