見な。よう拝見な」と自分にあまえてぶら[#「あまえてぶら」に傍点]下った。
「可《い》けないと言うに!」と自分は少女《むすめ》を突飛ばすと、少女《むすめ》は仰向けに倒れかかったので、自分は思わずアッと叫けんでこれを支《ささ》えようとした時、覚《さむ》れば夢であって、自分は昼飯後《ひるめしご》教員室の椅子に凭《もた》れたまま転寝《うたたね》をしていたのであった。
拾った金の穴を埋めんと悶《もが》いて又夢に金銭《かね》を拾う。自分は醒《さ》めた後で、人間の心の浅ましさを染々《しみじみ》と感じた。
五月十七日[#「五月十七日」に傍点(白丸)]
妻《さい》のお政は自分の様子の変ったのに驚ろいているようである。自分は心にこれほどの苦悶《くるしみ》のあるのを少しも外に見せないなどいうことの出来る男でない。のみならずもし妻がこの秘密を知ったならどうしようと宅《うち》に在《あっ》てはそれがまた苦労の一で、妻の顔を見ても、感付てはいまいかとその眼色を読む。絶えずキョトキョトして、そわそわして安んじないばかりか、心に爛《ただれ》たところが有るから何でもないことで妻に角立《かどだ》った言葉を使うこと
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