した後での衣食のことを思い、衣食のことよりも更に自分を動かしたのは折角これまでに計営《けいえい》して校舎の改築も美々しく落成するものを捨《すて》て終《しま》うは如何《いか》にも残念に感じたことである。
其処《そこ》で一日も早く百円の金を作るが第一と、今度はそれのみに心を砕いたが、当もなんにもない。小学教員に百円の内職は荷が勝ち過ぎる。ただ空想ばかりに耽《ふけ》っている。起きれば金銭《かね》、寝ても百円。或日のことで自分は女生徒の一人を連れて郊外散歩に出た。その以前は能く生徒の三四人を伴うて散歩に出たものである。
美《うるわ》しき秋の日で身も軽く、少女《おとめ》は唱歌を歌いながら自分よりか四五歩先をさも愉快そうに跳《は》ねて行く。路《みち》は野原の薄《すすき》を分けてやや爪先上《つまさきあがり》の処まで来ると、ちらと自分の眼に映ったのは草の間から現われている紙包。自分は駈《か》け寄って拾いあげて見ると内《なか》に百円束が一個《ひとつ》。自分は狼狽《あわて》て懐中《ふところ》にねじこんだ。すると生徒が、
「先生何に?」と寄って来て問うた。
「何でも宜《よろ》しい!」
「だって何に? 拝
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