は自分と異《ちが》ってすらり[#「すらり」に傍点]と高い方。言葉に力がある。
この母の前へ出ると自分の妻《さい》などはみじめ[#「みじめ」に傍点]な者。妻の一|言《こと》いう中《うち》に母は三言五言《みこといつこと》いう。妻はもじもじ[#「もじもじ」に傍点]しながらいう。母は号令でもするように言う。母は三言目には喧嘩腰《けんかごし》、妻は罵倒《ばとう》されて蒼《あお》くなって小さくなる。女でもこれほど異《ちが》うものかと怪しまれる位。
母者《ははじゃ》ひとの御入来。
其処《そこ》は端近《はしぢか》先《ま》ず先ずこれへとも何とも言わぬ中に母はつかつかと上って長火鉢の向《むこう》へむず[#「むず」に傍点]とばかり、
「手紙は届いたかね」との一|言《ごん》で先ず我々の荒肝《あらぎも》をひしがれた。
「届きました」と自分が答えた。
「言って来たことは都合がつくかね?」
「用意して置きました」とお政は小さい声。母はそろそろ気嫌《きげん》を改ためて、
「ああそれは難有《ありがと》う。毎度お気の毒だと思うんだけれど、ツイね私の方も請取《うけと》る金が都合よく請取れなかったりするものだから、此方
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