でになるんですから」とお政は最早《もう》泣き声になっている。
「然し実際|明日《あした》母上《おっかさん》が見えたって渡す金が無いじゃアないか」
「私が明日のお昼までにどうにか致します」
「どうにかって、お前に出来る位なら私にだって何とか為《な》りそうなものだが、実際始末にいけないのじゃないか」
「今度だけ私にまかして下さい、何とか致しますから」と言われて自分は強《しい》て争わず、めいり[#「めいり」に傍点]込んだ気を引きたてて改築事務を少しばかり執《とっ》て床に就《つ》いた。

 五月七日[#「五月七日」に傍点(白丸)]
 一寝入したかと思うと、フト眼が覚《さ》めた、眼が覚めたのではなく可怕《おそろし》い力が闇《やみ》の底から手を伸して揺《ゆ》り起したのである。
 その頃学校改築のことで自分はその委員長。自分の外に六名の委員が居ても多くは有名無実で、本気で世話を焼くものは自分の外に升屋の老人ばかり。予算から寄附金のことまで自分が先に立って苦労する。敷地の買上、その代価《ねだん》の交渉、受負師との掛引、割当てた寄附金の取立、現金の始末まで自分に為《さ》せられるので、自然と算盤《そろばん
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