を知るものなく、まして一人の旅客《たびびと》が情けの光をや。
※[#「月+溲のつくり」、第4水準2−85−45]土《しゅうど》
美《うる》わしき菫《すみれ》の種と、やさしき野菊の種と、この二つの一つを石多く水少なく風|勁《つよ》く土焦げたる地にまき、その一つを春風ふき霞《かすみ》たなびき若水《わかみず》流れ鳥|啼《な》き蒼空《あおぞら》のはて地に垂《た》るる野にまきぬ。一つは枯れて土となり、一つは若葉|萌《も》え花咲きて、百年《ももとせ》たたぬ間に野は菫の野となりぬ。この比喩《ひゆ》を教えて国民の心の寛《ひろ》からんことを祈りし聖者《ひじり》おわしける。されどその民の土やせて石多く風|勁《つよ》く水少なかりしかば、聖者《ひじり》がまきしこの言葉《ことのは》も生育《そだつ》に由なく、花も咲かず実も結び得で枯れうせたり。しかしてその国は荒野《あれの》と変わりつ。
路傍の梅
少女《おとめ》あり、友が宅にて梅の実をたべしにあまりにうまかりしかば、そのたねを持ち帰り、わが家《や》の垣根《かきね》に埋めおきたり。少女《おとめ》は旅人が立ち寄る小さき茶屋の娘な
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