ないか、こういうんだ、今度|代々木《よよぎ》の八幡宮《はちまんぐう》が改築になったからそれへ奉納したいというんだ。それから老爺《おやじ》しきりと八幡の新築の立派なことなんかしゃべっているから、僕は聴《き》きながら考えた、この画はともかくもわがためには紀念すべきものである、そして、この老爺《おやじ》もわがためには紀念すべき人である、だからこの画をこの老爺《おやじ》にくれてやって八幡に奉納さすれば、われにもしこの後また退転の念が生じたとき、その八幡に行ってこの画を見て今日のことを思い出せば、なるほどそうだとまた猛進の精神を喚起さすだろう。そうだとこう考えて老爺《おやじ》にくれてやることにした。老爺大変よろこんですぐ持って帰るというから、それは困る明日《あす》まで待ってくれろ今日は自宅《うち》へ持って帰って少しは手を入れたいからと言うと、そんならちょっとわしが宅《うち》へ寄ってくれろじきそこだからッて、僕が行くとも言わないに先に立ってずんずんゆくから、僕もおもしろ半分についていったサ。思ったより大きな家《うち》で庭に麦が積んであって、婆《ばあ》さんと若夫婦らしいのとがしきりに抜《こ》いでいた
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