わき目もふれないなどしきりに思い続けて例の森まで行った。
どこを画こうかと撰《えら》んで見たが、森その物は無論画いたところで画《え》としてはかえっておもしろくないから、何でも森を斜《はす》に取って西北の地平線から西へかけて低いところにもしゃもしゃと生《は》えてる楢林《ならばやし》あたりまでを写して見ることに決めた。
道は随分暑かッたが森へ来て少し休むと薄暗い奥の方から冷たい風が吹いて来ていい心持《こころもち》になった、青葉の影の透きとおるような光を仰いで身体《からだ》を横に足を草の上に投げ出してじっと向こうを見ていると、何という静かな美しい、のびのびした景色だろう! 僕は何《なん》もかも忘れてしばらくながめていた。
でき上がったのがこれだ。われながらお話にはならないまずサ加減、しかし僕は幾度でもこれを画《か》く、まず僕の力でこれならと思うやつができるまでは何度でも写しにくると決心してかかったのだ。ところでこのまずいやつをここまで画《か》き上げるのに妙なことがあったのサ。
しきりと画いていると、実景があまりよくッて僕の手がいかにもまずいので、画いていながらまたもや変な気になって何
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