」に傍点]してしまった。世上の人はことごとく、彼ら自身の問題に走り、そがために喜憂すること、戦争以前のそれのごとくに立ち返った。けれども、男《だん》は喜憂目的物を失った。すなわち生活の対手《たいしゅ》、もしくはまと[#「まと」に傍点]、あるいは生活の扇動者を失った。
 がっかり[#「がっかり」に傍点]したのも無理はない。彼の戦争論者たるも無理はない。
「号外」、なるほど加藤男の彫像に題するには何よりの題目だろう、……男爵は例のごとくそのポケットから幾多の新聞の号外を取り出して、
「号外と僕に題するにおいて何かあらんだ。ねえ、中倉さん、ぜひ、その題で僕を、一ツ作ってもらいたい。……こんなふうに読んでいるところならなおさらにうれしい、」と朗読をはじめる。
 第三報、四月二十八日午後三時五分発、同月同日午後九時二十五分着。敵は靉河《あいか》右岸に沿い九連城以北に工事を継続しつつあり、二十八日も時々砲撃しつつあり、二十六日|九里島《きゅうりとう》対岸においてたおれたる敵の馬匹《ばひつ》九十五頭、ほかに生馬六頭を得たり――
「どうです、鴨緑江大捷《おうりょっこうたいしょう》の前触れだ、うれしかっ
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