と男』のために、じゃアない、ためにじゃアない、「加と男」をだ、……をだをだ、……。だから承知しましたよ。承知の助《すけ》だ。加と公の半身像なんぞ、目をつぶってもできる。これは面黒《おもくろ》い。ぜひやってみましょう、だが。」先生、この時、チョイと目を転じて、メートルグラスの番人を見た、これはおかわり[#「おかわり」に傍点]の合図。
「だが、……コーツト、(老人は老人らしい、接続詞をつかう。)題はなんといたしましょう、男的閣下。題は、題は。」
「だから言うじゃアないか、題はおれが、おれが考えがあるから可《エー》と言うに。」
「エーと仰せられましても、エーでごわせんだ。……めんどうくせえ、モーやめた。やめた、……加と男の肖像をつくること、やめた! ねえ、そうじゃアないか満谷《みつたに》の大将」と中倉先生の気炎少しくあがる。自分が満谷である。
「今晩は」と柄にない声を出して、同じく洋服の先生がはいって来て、も一ツの卓に着いて、われわれに黙礼した。これは、すぐ近所の新聞社の二の面の(三の面の人は概して、飲みそうで飲まない)豪傑兼|愛嬌者《あいきょうもの》である。けれども連中、だれも黙礼すら返さ
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