のか、わたしが言いましょうか、」と加《か》と男《だん》。
「言うてみなさい」と今度はまた彫刻家のほうから聞く。
「僕が言うて見せる」とついに自分が口を入れてお仲間にはいった。
「なんです」男《だん》が意味のない得意の声をいだした。
「戦争《いくさ》の神を彫ってくれろと言うのでしょう」
「大ちがい!」
「すなわち男爵閣下の御肖像を彫ってくれろと言うのでしょう」
「ヒヤヒヤ、それだそれだ、大いに僕の意を得たりだ、中倉さん、全く僕の像を彫ってもらいたいのです、かく申す『加と男』その人の像を。思うにこれは決して困難なる業《ぎょう》でない。このごとくほとんど毎晩お目にかかっているのだから、中倉君の眼底には、歴然と映刻せられておるだろうと思う。」
「そして題して戦争論者とするがよかろう。」と自分が言う。
「敗《ま》け戦《いくさ》の神と言うほうが適当だろう」と中倉先生はまた、自分が言わんと欲して言うあたわざる事を言う。
「題は僕自身がつける、あえて諸君の討論をわずらわさんやだ、僕には僕の題がある。なにしろ御承諾を願いたいものだ。」
「やりましょうとも。王侯貴人の像をイジくるよりか、それはわが党の『加
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