「モシできる事なら、大理石の塊《かたまり》のまん中に、半人半獣の二人がかみ合っているところを彫ってみたい、塊の外面《そと》にそのからみ合った手を現わして。という次第は、彼ら争闘を続けている限りは、その自由をうる時がない、すなわち幽閉である。封じかつ縛せられているのである。人類相争う限り、彼らはまだ、その真の自由を得ていないという意味を示してみたいものである。」
「お示しなさいな。御勝手に」「男《だん》」は冷ややかに答えた事がある。
 そこで「加と男」の癖が今夜も始まったけれど、中倉翁、もはや、しいて相手になりたくもないふうであった。
「大理石の塊《かたまり》で彫ってもらいたいものがある、なんだと思われます、わが党の老美術家」、加藤はまず当たりました。
「大砲だろう」と、中倉先生もなかなかこれで負けないのである。
「大違いです。」
「それならなんだ、わかったわかった」
「なんだ」と今度は「男《だん》」が問うている。
 二人の問答を聞いているのもおもしろいが、見ているのも妙だ、一人は三十前後の痩《や》せがたの、背の高い、きたならしい男、けれどもどこかに野人ならざる風貌《ふうぼう》を備え
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