は皆《みん》なこんな小屋に住んで居るのですよ。どうです辛棒が出来ますか。」と井田は笑ひながら言つた。
「覚悟は為《し》て居ますが、イザとなつたら随分困るでしやう。」
「然し思つた程でもないものです。若し冬になつて如何《どう》しても辛棒が出来さうもなかつたら、貴所方《あなたがた》のことだから札幌へ逃げて来れば可いですよ。どうせ冬籠《ふゆごもり》は何処でしても同じことだから。」
「ハッハッハッヽヽヽ其《それ》なら初めから小作人|任《まかせ》にして御自分は札幌に居る方が可《よ》からう。」と他の属官が言つた。
「さうですとも、さうですとも冬になつて札幌に逃げて行くほどなら寧《いつ》そ初めから東京に居て開墾した方が可いんです。何に僕は辛棒しますよ。」と余は覚悟を見せた。井田は
「さうですな、先づ雪でも降つて来たら、此《この》炉にドン/\焼火《たきび》をするんですな、薪木《たきゞ》ならお手のものだから。それで貴所方だからウンと書籍《しよもつ》を仕込《しこん》で置いて勉強なさるんですな。」
「雪が解ける時分には大学者になつて現はれるといふ趣向ですか。」と余は思わず笑つた。
 談《はな》して居ると、突
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